午後、6畳の部屋は薄暗く、僕はソファに本を置く

本ブログはフィクションですが、一部隠し切れない真実を含みます。

平成最後の大晦日に何が生まれたのか、という話

12/30に5歳と4歳の甥っ子が実家に遊びに来ていたので会いに行ったんだけど、到着早々にイオンに連れていけと何度も言うので僕と甥っ子3人でイオンに行くことになった。
上の子の話によると兄弟で、あるポケモンのゲームにはまっているらしく、昨日、こちらのイオンにもあるのを見たそうだ。
僕としても本を買いたかったのでちょうどいいかなあと思っていた 。

イオンに着いて一緒にゲームセンターに行き、それぞれに500円ずつを渡した。
いくらしっかりしていると言っても保育園生2人をそのまま置いておく訳にもいかず、僕も2人のポケモンゲームに付き合ってしばらくその様子を眺めてた。

このゲーム、ポケモンガオーレという名前らしい。
筐体は独特の形をしているので既成枠ではないのだろう。画面を見てもアニメーションが結構しっかり作りこんであるのでメーカーとしてもまあまあ力を入れているのではないかと思われた。
ゲームの内容はランダムで現れる2匹のポケモンとバトルして最後にモンスターボールで捕まえるというもののようだ。捕まえたポケモンはガオーレディスクという厚めのプラスチックカードとして排出されるのでそれを次回以降に筐体にセットすると味方のポケモンとして召喚できるようである。
甥っ子達はゼラオラというポケモンのガオーレディスクが欲しくてプレイしているらしい。
結構値段が高くてプレイのために100円、ゲットしたポケモンのディスクを排出するならさらに100円、という値段設定がされている。
つまり1ディスク最低でも200円である。プレイしているのを見ているとポケモンは倒せたからといって必ずゲットできるわけではなく、しょぼいモンスターボールを投げてしまった場合逃げ出すこともあるようだ。
ゼラオラが何かは知らないが、狙ったポケモンが100円数枚で簡単にゲットできるような仕組みではないことはすぐに推測できた。

案の定、最初にプレイした上の子は初期モンスターっぽいポケモンのガオーレディスクを2枚しか手にいれらなかった。

「あーあゲットできなかったよ」
そう言って小さな肩を大げさに落とすものだから僕としてはここで大人の威厳を見せ付ける必要があると感じた。

「僕に任せてよ。必ずゲットしてみせるから」
任せて。してみせる。虚栄心と傲慢。僕はこの瞬間、7つの大罪の2つを同時に犯した。そしてその報いはすぐにやってきた。

「あっれ?っかしーな」
僕と甥っ子達は最初の1000円からさらに追加で1000円を投入したがゼラオラは一度も現れなかった。いや、金銭的には大した問題ではない。2000円を使い切るまでに3時間を要したことの方が僕にとっては大きな損失であった。
このポケモンガオーレは子供達に大人気であり、結構な列が出来ているので、1プレイ毎に列の最後尾に並びなおしが必要なのである。
中には1回のプレイで3戦を続けて行う不届き者もあったが、他にも子供と付き添って並んでいる大人が何人かいたのだが、誰も何も言わないので僕も注意することができなかった。

「夕方からお仕事の用事あるから本当にごめんなさいなんだけど今日はお家に帰ろう」
「えー!!まだゼラオラゲットしてないよ?」
ゼラオラー!!」
甥っ子達は非難轟々であったが、さすがに年末の人がいない状況の仕事をすっぽかすわけにもいかないので、兄達が泊まる実家に連れ帰った 。

 

「兄ちゃん、いつ帰るんだっけ?」

僕は実家でテレビを見ていた兄に尋ねた。

「え?あーまだ飛行機取ってないけど多分1/4まではいようかなーと思ってるけど」

期限は1/4。渡すことを考えたら1/3までに入手しておく必要がある。そう、僕は諦めていなかった。

「それまでにまた来るわ。子供達に渡さなきゃいけないものがある」

 

僕はこれまで、目標の完遂に徹して生きてきた。

だからこれをブレさすことはできない。

目標を達成するために大事なことは、目標設定を見誤らないことと、多角的な視野で攻略ルートを複数検討する事だと思っている。

例えばこのブログ。僕の最大目標は自分がいいと思える記事を書くことである。だからPVも更新頻度も重要ではない。自分のペースで自分が興味のある内容を書くことが大事だと思っている。

それに何の意味があるのかはわからないが、僕が死んでもネットの海で僕の思念がテキストという形で浮遊していると思うと、それはなんか楽しい。そして僕の知らない誰かがいつかそれを読んで少しでも面白いと思ってくれるのであればそれでいい。

最大目標以外は努力目標なので適宜変更してしまって構わない。

そして、僕は色んな手法を試して完成したものについて自問自答するのだ。それって面白いの?と。

 

諦めなければ物語はいつまでも続く。それがいくら冗長で緩慢で退屈な物語だったとしても。必ずゼラオラをゲットしてみせる。今胸に宿ったこれは虚栄心でも、傲慢でもない。目標を達成するための情熱というエネルギーだ。

 

僕は早速、インターネットを使ってポケモンガオーレについて調べた。

そこで以下のことかわかった。

・きあい、という数値が出現ポケモンのレアリティに関連する。

・きあいを上げるためにはガオーレパスという別売りのカードを購入し、使用するか、毎セット毎にガオーレディスクを排出する。

・これはガオーレディスクを排出するとボーナスがつくため。

・なので継戦が基本。1ゲームは3セットまで継戦可能。

・3セット目までにきあいを380以上に上げておけばかなり高い確率でレアポケモンが出てくる。

・レアポケモンや、属性効果を使えば大体のポケモンはワンパン余裕。つまり戦闘自体は難しくない。

・あとは大体確率。運任せ。

 

なるほど。複数回プレイが基本だったようだ。

ガオーレパスは店舗で購入するとして、あの回転率の悪さが問題である。

僕はすぐにガオーレの設置店を検索して、人の少なそうな店舗を見繕った。

問題は大人1人でガオーレを攻略することが緩やかな社会的自殺になり得るか、ということだが、これについてはいい。そう言った意味では僕はもう死んでいる。

1/1以降はお年玉効果でたくさんの子供達に占領されることが予想されるので、できれば31日までにゲットしておきたい。つまり明日。平成最後の大晦日、為すべきことは決まった。

 

翌日、僕は9時にはイオンに向かった。結局、開店時間が早い方をとった。時間効率を考えれば別の店舗を優先すべきだが機会損失は避けたかった。

いくら戦闘が難しくないと言っても僕は昨日手に入れたガオーレディスクを全て甥っ子に渡していたので、持ちポケモンがなかったのだ。この場合、こちらのポケモンはランダムで選ばれることになるのだが、おそらくランダムポケモンゼラオラをゲットできるほどぬるい設定にはなっていないだろう。いや、なっていてもらっては困る。

僕は今日、ポケモンガオーレという子供用のアーケードゲームにガチで挑もうとしているのだ。ならばそれは相応の高さの壁であって欲しいというのが人の心だと思う。

僕はガオーレパスを購入して早速、ゲームセンターへ向かった。子供の姿はなかったが1人先客がいた。

 

大の大人が1人、ガオーレをプレイしていた。

僕としてはもう覚悟を決めてきているので、迷わずその彼の後ろに並んだ。

見たところ、大学生か、もう少し上、というところだろうか。ガオーレパスも持っているし、ディスクを入れている箱や、プレイ画面のポケモンもでんせつ、とかスペシャルと表示されているので、おそらくガチ勢なのだろう。

きあいを素早く上げるため、戦闘中に連打をしなければならないのだが、なんというか、両手でタタンタンッとしなやかに軽く、しかしかなりの符割で叩いている。多分彼は本物である。ガオーレ界の本物を見たことはないが多分彼がそうなのだと瞬時に理解させる程にはオーラが出ていた。

自分より優れたものがいると、嫉妬や憤怒を感じる人もいると思うがこれは7つの大罪である。正しい措置は認め、仲間に引き入れることである。

 

しばらく黙ってみていると彼のプレイが終わった。

彼はそそくさと荷物をまとめ何処かに行こうとしたので、僕はすぐに声をかけた。

「あのーすみません。僕、初心者なんですけどーちょっと教えてくれませんか?」

いかにも、息子にせがまれてしまいまして、というようなジェスチャーを交え、僕はキャラ付けし易い僕を演じた。欺瞞。これは7つの大罪ではない。正しい嘘が存在することを歴史は証明している。

彼は「あ、はあい」と言って僕の横についた。

 

揃った。後はゼラオラ、お前が僕の前に現れるだけだ。

 

最初のポケモンニャビー?という猫のポケモンアマージョという、なんだかよくわからないポケモンだった。

僕は筐体の「ガオーレディスクを入れてね」というメッセージで迷わずランダムポケモンを召喚することを選んだ。彼と話をしながらこれまでの経緯とゼラオラをゲットしたいという目的を告げた。

とりあえず簡単に1戦目を終え、アマージョをゲットした。きあいボーナスでは本気を出して連打した。

 

2戦目はワニのポケモンと火のハリネズミのようなポケモンだった。僕のランダムポケモンフシギダネイワークは比較的簡単にやっつけられてしまった。

あと3体までポケモンを召喚することができる。

僕は数秒待った。

横にいる彼が最適なポケモンを選択し、ガオーレディスクを持ち出してくれることを想定して。

「あ、よかったら使います?」

ニヤリ。

「あ、いいですか?すみません」

 

彼が選んでくれたポケモンは恐竜のようないかにも強いポケモンで、レア度を示す星が虹色に輝いていた。

先程までのランダムポケモンと比較すると攻撃に移るまでのウェイトタイムの減りが段違いに早かった。

また、攻撃も通常の攻撃ではなく、Zワザとかいうパワーアップ版であり、ワンパンで敵を粉砕した。

「す、すごいですね。レアポケモン

「まぁ、そうですね。効果は抜群、でしたしね」

ガオーレディスクを排出したかったが、ポケモンがゲットできなかったため、気合いボーナスをつけることができなかった。

しかし、ここまでのプレイで僕のきあいは400オーバーになっており、十分ゼラオラが狙えると思われた。

そして、本番の3戦目、待ちに待ったゼラオラがついにその姿を現した。

「あー出ましたよ!!ゼラオラ!!」

「あ、本当ですね、頑張ってください」

ゼラオラは二足歩行の猫のような黄色のポケモンで見た目からはおそらく電気系のポケモンであると思われた。

ジワリと手が湿った。

しかし、あっさりと僕の心配は杞憂に終わった。

彼のでんせつポケモンが強すぎて2撃でポケモンを倒してしまったのだ。

ただ、ここからが本当の戦いである。

ポケモンをゲットするモンスターボールは恐らく4種類ある。ゲット率が低い順にモンスターボール、スーパーボール、ハイパーボール、マスターボール。最上位のマスターボールに限っては100%ゲット出来るようだ。

この4種類がルーレットのように回っており、ボタンを押すタイミングで何になるか決まる。

目押しができるのかは知らない。

僕は念のため、彼に尋ねた。

「これって目押しできるんですかね?」

「ある程度は。しましょうか」

そういうと彼はタンッと軽くボタンにタッチした。マスターボール。そうか、彼はやっぱり本物だ。

 

まさか、1ゲーム目でゼラオラがゲットできるとは思わなかった。ゼラオラのディスクが印刷されるまで僕の手は震えていた。

彼に何度もお礼を言った。彼は「じゃあ」と言って去っていた。せめてお名前だけでも、と言いたい気分だった。

 

周りを見渡すと僕以外に誰もいなかった。

僕は迷わず100円を入れた。

ここまでは甥っ子の溜息に報いるためだった。

しかし、ここから先は新米ポケモントレーナーの僕のためのバトルである。

 

かかってこい!最強のポケモン

 

こうして、とある地方都市のイオンにまた1人、PTAなどに目を付けられそうな大人が生まれたとのことである。