午後、6畳の部屋は薄暗く、僕はソファに本を置く

本ブログはフィクションですが、一部隠し切れない真実を含みます。

電車の中で笑うキモいおっさんが美容室で恋愛論を熱弁する話

絶対にマネしたらいけないのだが、僕の楽しみのひとつに電車やバスなどの公共の場でお笑い番組を見る、というものがある。


もともとは「ガキの使いやあらへんで」の年末特番の笑ってはいけないを見ている時に、あの演者の空気感を再現できないか、と考えたことがきっかけなんだけど、やってみるとかなりおもしろい。


おっさんが電車の中でスマホを見ながら笑っているのは、端的に言ってやばいと思うが、僕は普段からゲラ(※笑いやすい)なので、そんなまずい状況であろうと我慢なんてできず、普通に笑っている。声を上げて。多分僕の中の何かが狂っているのだと思われる。

 

この趣味については下らないことがとても楽しくなるし、毎日の通勤時間の合間にちょっとできることなので、コスパに優れるが、品位というのは一度失ってしまうと二度と取り戻せないのでやるべきではないことだけは伝えておく。

 

ある日の移動中、前述の趣味を実行をしようとhuluを漁っていたんだけど、めぼしいものがなかったので、「あーそういえば松本仁志のなんかおもしろいやつ、アマゾンプライムにあったよな」と思い出し、早速アマゾンプライムに入会した。

 

ドキュメンタルである。

 

このドキュメンタルという番組は笑ってはいけないにかなりルールが似ているが、仕掛け人が外部にいるのではなく、仲間同士で笑わせあう、ということに大きな違いがある。


笑ってしまうとゲームから脱落し、最終的に残った人が賞金1千万を獲得する、というものである。


基本的にはゲストによる笑わせはないので、番組の面白さは参加メンバーの好みでかなり変わってしまうのだが、僕はとても面白いと感じた。


それから毎日、通勤時間にドキュメンタルを見ていたのだが、ネット番組のため規制が緩いのか、回を追うごとにかなりエグい下ネタばかりになってしまった。

 

いや、家で一人で見るなら問題ないんだけど、僕電車で見てるからね?
iphoneプラスのデカい画面いっぱいにモザイク表示されていて、かつ、ニヤニヤしたおっさんってさすがに臨界点を超えている、と思い、やめた。


しかし、そうなると暇である。


それからは藤沢周平先生原作、山田洋二監督の隠し剣シリーズ(※ 原作も映画もめっちゃ好き)を見たり、ダークナイトを見たりしたが、これは違うと感じた。


もちろん作品自体は素晴らしいのだが、僕がその時間に求めているものと違う。
なんというか23時頃にアイスなど食べながら見るような番組がいい。


そこで、Huluに戻って、TVのバラエティなどを見てみたがこれはまったく違った。
番組の選択を誤ったものと思われるが単純に興味が持てなかった。

 

ドキュメンタリーがいいのかもしれない、と考え、アマゾンプライムプロジェクトXを見たり、イカれたアメリカンが旧車のキャデラックのエンジンをアホ馬力に乗せ換えたりするよくわからない外国の番組を見たがこれらも違った。

もうこうなってくるとヒカキンTVとかのが合うのかもしれない。


1ヵ月ほど色々な番組を漁ったがベストな作品には出会えなかった僕はついにyoutubeのアプリを起動し、適当になんかの動画を見ようとしたのだが、そこで
バチェラージャパンのCMが流れた。

 

「世界中で大人気の婚活サバイバル番組、バチェラーが日本にやってきた!」


アマゾンプライムだけの独占放送らしい。20数名の美女がお金持ちでイケメンの一人の男性との結婚をかけてかけてバトルするらしい。

 

すぐにyoutubeを閉じて、アマゾンプライムでバチェラージャパンを視聴したのだが、これだった。

霞のようにあやふやだった僕が求めていた理想の輪郭がバチェラージャパンによってくっきりと描かれた。


バチェラージャパンこそが最適解であった。

 

僕は一瞬でバチェラージャパンのファンになったが、その上でこの番組がどういう番組であるかを説明すると、あいのりとかテラスハウスの亜種であると言ってしまってよい。


しかし、大きな違いは前述の通り、男女比が不平等であることであり、それによってこの番組独自の面白さが生まれていると言える。


婚活サバイバルと表記の通り、毎回、バチェラー(※一人だけの男性を指す、おそらく王様みたいな意味?)は次回に進む女性を選択せねばならない。

このため、女性側は当然の戦略として最初は恋愛をするというより、どのようにしてライバル達から一歩抜け出るか、ということを考えなければならなくなる 。そして回を進むごとに女性の数が減り、徐々にバチェラーとそれぞれの女性の間にほのかな恋愛感情が生まれ始める、というのがこの番組のおおまかな流れである。

 

CMでは女性同士の対立をすごく推してたけど別にそれが面白いということはないのであくまでエッセンス的な感じでしかないと思う。見所は最終盤の残った女性達の実家に行って家族に挨拶するとこらへんなんだけど、もうこの頃には感情移入しまくっているので普通に泣ける。

 

女性であれば全年齢楽しめると思う。
おそらく男性の場合は若ければ若いほど興味があると思うが、この番組は30~40代のおっさんこそ見るべきだと思う。

 

まず、そもそもおっさんの98.6%はモテないので擬似的にモテる気分を味わえるのが楽しいと思う。

そしてそれに反するように、おっさんには若い女性を見るときに「自分の娘的に見てしまう目線」という謎の慈しみ目線が存在する場合がある。そういったおっさんにとってはお気に入りの子が脱落した時など、通常の比じゃないほどには落ち込める 。


下品なおっさんはとことん下品だが、並みのおっさんはモラル的な下品さは嫌う傾向にあるのでアマゾンはもう少しモテないおっさんに対する別角度のアピールをすべきだと思う。

 

僕自身は見ていてバチェラー側も紳士的で嫌味がないと感じたが、 結構簡単にほっぺにキスとかするのでその点で潔癖な人はバチェラーに嫌悪感を持つのかも知れないなあと思った。

 

さて、まったく話は変わるが、わが夫婦は二人とも同じ美容室に通っている。


二人で同じ時間に予約していくこともよくあり、先日もそのようにして美容室に向かった。我々夫婦が仲がいいことをここの美容師さんはよく知っていて別に 何の違和感もなく、その日も隣あった席をとってくれていた。

 

妻が隣で髪を染めている間に僕はいつもの美容師さんに髪を切ってもらっていた。


この美容師さんは笑顔が朗らかな可愛いタイプの女の子で、結構なおしゃべりなのだが、その日も僕と彼女は「最近あったおもしろいこと」をテーマに自由に話をしていた。

 

髪を洗ってもらっているときに僕からバチェラージャパンの話を振った。

 

「え?見てます?あたしも好きなんですよ!」

 

彼女の話ではここの美容室のスタッフ数名で定期的にバチェラー合宿という名のお泊り会を開いているらしい。
あーでもないこーでもないとみんなでバチェラーを見るのはさぞ楽しいだろうなと想像した。


バチェラーのシーン、シーンでの感想などを話していると、その流れで彼女の恋愛話になった。

 

「や、でも結婚ってなったらやっぱ不安みたいなのないです?」

 

要約すると、彼女には数年付き合っている彼氏がいるが、特に不満はないけど、ときめくことも少なくなって、結婚するというような雰囲気にもならず、自分自身も結婚ってなったらちょっと尻込みするかもしれない、と。
そういう部分があるということを考えるとこの恋愛は運命の出会いではないのかもなぁと思う、というようなことだった。

 

別に当たり障りない返答をすればよかったのだが、この時の僕はバチェラージャパンを見ていたのでムキムキに恋愛強者にパンプアップしており、自分も想像していないほど唐突に真剣なアドバイスをしてしまった。


「例えば川の下流の川べりで石ころを二つ拾って、カチャッと合わせるゲームをしているとします。


その時、二つの石ころが合わさった姿がきれいな丸であればあるほどいいというルールだったすると、そういう風になる組み合わせを見つけるのはかなり大変だと思います。


だって既に上流からそれぞれに転がって、単体である程度丸くなったそれらが合わさる確率ってかなり低いじゃないですか。

でもそういうのが見つかったら、それは運命と言い切っていいと思うんですよ。


番組の面白さは置いといて、バチェラージャパンがしようとしていることってそういうことだと僕は思っていて、20数人は確かに多いけど、個人がそれぞれに大人として成立した状態で夫婦というきれいな丸になるための相手を選ぶには試行回数として少なすぎるように思います。

言い方悪いけどステータスだけ見て熱のないまま合わさる相手を探しているというか。

 

マジで惚気るつもりはないんですが、うちの夫婦って仲がいいんですけど、だからって別に最初から僕にとって妻が最適な人物であるとは言い切れなかったと思います。

もちろん逆に妻にとっても僕が最高であると言えなかった 、と思いますし。

つまり我々は出会った当初は運命の相手ではなかった、と。それは実際、そう思います。

 

だけど僕達は人間形成もままならない10代の頃からそれぞれ尖った部分も持ったまま、一緒くたになって絡み合って上流から転げてきたんだと思うんです。

だから僕達は下流に行き着いた今になって、引き離せば、それぞれ単体は多少歪な形かもしれないですが、二人でいるときれいな丸になる、という状況なんだと思います。

 

運命っていうのはあっていいし、僕もあると思いますけど、多分、それの正体を紐解いていくと、思い込みみたいな部分も多くあって相手に対して自分がどれだけ思い入れて、思い込めるか、ということになってくると思います 。

 

まぁ結局、結婚ってなると相手よりも相手の家族と家族になるっていう部分が重要なので、相手の家族と会ってみることをお勧めしますが」


そこまで言ったところで、隣の妻が笑い出した。

「それ惚気てるよね?本当恥ずかしいからやめて」

まあそうか、と思って僕も笑って美容師さんの方を見ると、泣いていた。

 

「なんか、わかるなぁと思って。すみません」

 

その後、他の美容師さんもこの異常事態を察知し集まってきたので泣いた美容師さんがみんなに事情を説明したのだが、僕の話がとても素晴らしいとみんな、褒め称えてくれた。


妻は「本当恥ずかしい」と口では言っていたが、心なしか少し誇らしげに見えた。

 

僕はある唄の歌詞からの引用であるという事実を胸の奥にそっと仕舞った。