●このブログについて
僕はこのブログのことをすっかり忘れていた。
アイフォンの修理のためにバックアップを作っていた時にこのブログの下書きを見つけてやっと思い出した。
読み返してみたけどゾンビのやつ以外はなかなか面白いと思う。自分で言うとアレだけど。ゾンビのやつはもう少し空想描写をどうにかすべきだった。書いているときは空想描写が冗長であればあるほどオチに効いてくると思ってたけど、描写が幼稚すぎて(※意図してそうしたことも含め)まったく入り込めず、逆にオチを弱くしているよう感じた。
さて、このブログのコンセプトについて説明していないので、これがなんなのかよくわからなかったと思う。僕自身改めて時間をおいて読んでみて、こいつなんなの?と思った次第である。
このブログは「僕に起きた事実の中でまだ言葉になっていない感情を覚えた出来事を文章化する」というコンセプトの元書いている。
物語としての面白みを増すために多少の粉飾はしていることは伝えておきたい。
しかし事実を元に書いているので登場人物は実際にいる人である。その人達を陳腐化させたり悪く書きたい意図はないのでフィクションとして読んでもらえると助かる。
というか便宜上フィクションとしてほしい。
あくまで理想だけどできれば僕が感じた気持ちに似たものを読み手側に再現させたい、という下心がある。僕自身が主人公の物語ではあるけれども僕というキャラクターはあまり重要ではなくて、好きなように読み替えてもらったり、適宜適当なキャラを設定してもらっていいと思っている。僕が感じた気持ちと読み手側が感じた気持ちの差異はあってもいいとも思っているので正しくは再現ではないかもしれないけど。
例えば、僕は既婚者だがこのブログ内で別の女性と仲良くしている描写をしたとしたら、変に邪推をする人もいるかもしれない。そういう部分に本意はないので避けたし、逆にいいことをしたとしてもそれを褒め称えられるのも違うのである。
だから、できればフィクションとして受け取ってほしいなぁと思う。
ただ、結局このブログの最たる目的としては読んでいる人に楽しんでもらえることではある。
書き口が妙に軽薄だったりコメディタッチだったりするのに、中にあるコンセプトが純文学系(界隈の人怒らないでください)であるアンマッチを楽しんで欲しいし、今後あげるとすればその精度は高めていきたいと思う。
しかし、書き口は意図して選んでいるので僕自身がめんどくさくなる可能性がある。今後一定化してきた場合、手を抜いていると感じてもらってよい。
僕自身についてはクソみたいな冗談をいつも言ってる会社の同僚の狼少年だと思ってもらればいいので、足りなければ後は適当に想像で補完しといて欲しい。
更新スピードがゴミなのはもともとコンセプトに合致する出来事はそうそう起きないことと、単純に満足する完成度のものができないからである。
思い出した以上、定期的にアップできればとは思っているのでその辺と折り合いをつけながら頑張る。
なぜ最終投稿から一年くらいたって突然こんな所信表明のようなことをしたかと言うと、久しぶりにはてなの解析を見たら意外と見ている人がいたためである。
旬のトピックも追ってないし、検索でもヒットしないと思うのになぜ見ているのかは不明である。
めちゃめちゃ暇なのかもしれないが、他にやることは必ずあるはずである。
しかしそれでも貴重な時間を割いてこんな長文を読んでくれるのであれば、僕自身は書いているだけで満足だが、一緒に楽しんで貰えると嬉しいので僕なりの解説を挟んだ次第である。
自慰がすぎるかもしれないが、これまでの記事について言及する。
僕自身が最も気に入っているのはそばのやつである。弱すぎるネタを冗長に書き連ねるという部分で上手くいったように思っている。
お勧めは隣の席に不美人がいてなんちゃらである。久しぶりに読むと構成は見直す必要があるように思ったのでもしかしたら修正するかもしれない。けれどそれに何の意味があるのかは知らない。あとタイトルはやらかしたな、と思っている。実はこのブログの一発目の記事だったんだけど、死を取扱うという部分で躊躇してしまいあげなかった。
名探偵のやつはアホみたいなことを考え込む推理小説風にしたかったけど、興味が引っ張れない割に冗長なんだよな、もう少し違うアプローチが出来たのでは?と今なら思う。
妻話はシリーズ化したい。ネタはまだある。しかし妻を小馬鹿にしているように感じるかもしれないのでこれも躊躇してしまっている。言っとくと我々はとても仲が良く、このブログの記事は全て妻の検閲を合格しているものであることは伝えておきたい。あと妻はとても美人で賢いです。僕にはもったいないほどであると思っています。勘の良い方、お察しの通りです。
今後は亡くなった親友の話やAVを3日に1回大量に借りていくイケメンの話、ダンゴムシの巣窟について、廃墟に住んでいるホームレスとそこで自殺した少女の幽霊の話など盛りだくさんであるがどこまで陽の目をみれるのか、あげたとしてもこの注釈記事を読んだ人が読むことがあるのか、とりあえず頑張りたいと思う。
あとタイトルに●がついてたらコンセプトから外れて適当かましてる記事だと思ってほしい。常に適当かましてるのでよくよく考えたらどうでもいいので忘れてもらってよい。
ここまで読んでこいつ恥ずかしくないのか?と思った人がいるかもしれないがそういうの母親の胎内に置いてきたので持ち合わせがない。逆に君達は裸で生まれてきたのにそれ以上に恥ずかしいことがあるのか、と。いつかは死ぬしどうせなら楽しんで生きようぜ。少なくとも僕はそうする。
「ゾンビを倒すために最も効率的な武器について」
昼前に喫煙室にタバコを吸いに行ったところ、年下の同僚が煙に目をしかめならスマホを凝視していた。
「何してんの?」
僕がそう声をかけると同僚はチラとこちらを見、すぐにスマホに視線を戻して言った。
「ゾンビの世界で生き抜く方法を考えてました」
カーン。
イメージの世界で甲高い音が鳴った。それがなんなのか一瞬わからなかったが、ゴングであることにすぐに気付いた。
「え。なんて?」
「あ、いや、ゾンビに囲まれたらどうしようかな、と思って」
こいつ、まじか。
僕がゾンビを好きなことを知ってて言っているのか?
コールオブデューティーブラックオプスでゾンビモードにはまってからというもの、ありとあらゆるゾンビものの映画や漫画を消費しまくり、ゾンビが好きすぎてゾンビの仮装をやってたUFJにも単騎突入し、前述のゾンビモードではグリッチなしでスコア世界100位以内(※とてもすごい。休みなしで2日かかった)に入ったけれども、家族や友人にゾンビのよさを伝えても理解を得られず、虐げられてきたこの僕に、まるで無防備で、軽率に、ゾンビについての考察を求めて、ただで済むと思っているのだろうか。
そして、僕の中に強烈なイメージが浮かんだ。
~~~~~~~~~~~(イメージの世界)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
若くして無敗のまま世界チャンピオン戦まで上り詰め、史上最高の天才と言われた僕は、山での修行中にクマに襲われた際、命を救われた、宿命のライバルで世界チャンピオン、マハリスと因縁の対決に挑むことになった。しかし、試合前夜、報われない家庭環境から荒れた生活をしていた僕をボクシングの道に導き、公私ともに支えてきた幼馴染でトレーナーのたかこを不慮の事故で亡くしてしまう。絶望に暮れた僕は試合を棄権し、姿をくらました。3年後、たかこの弟でプロボクサーのよしおが世界戦の練習のためモロッコを訪れた時、地元民も寄り付かない場末のパブでゴロツキ共とポーカーに興じていた僕を見つける。よしおは僕に声をかけるが、変幻自在のアイスハンマーと呼ばれた僕の右手は既に握力を失ってしまっていた。よしおは姉の意思を受け継ぎ、僕のトレーニングを始めるが、右手の状況は一向によくならなかった。だましだまし試合を重ねていくが、かつての史上最高の天才の面影はリングの上には見られなくなっていた。再び失意に暮れる僕だったが、町で見かけた、たかこによく似た女性、まさみとの出会いで、少しずつ精神的な強さを取り戻していく。かつてマハリスに救われた山に修行に訪れた際、再びあの時のクマと出会う。絶体絶命の状況に陥った僕だったが、ステップインから最大限に腰のひねりを増幅させ、フックのように死角から、ストレートのような鋭さをもつ、必殺の左パンチを繰り出し、クマを撃退する。その後、このパンチで連戦連勝を重ねる僕だったが、腰へのダメージは深刻で、医者から「あと3発まで」と宣告されてしまう。必殺のパンチを封印し、世界チャンピオンを目指す僕だったが、かつて戦ったライバル達が立ちふさがり、2発のパンチを消費してしまう。いよいよ世界チャンピオン戦目前となるが、世界最長防衛記録を持ち、すでに生ける伝説となっていたマハリスを、よしおが倒し、新世界チャンピオンとなってしまう。よしおとはまさみとのことで対立してしまい、よしおはジムを移籍してしまっていたのだった。そして遂に僕とよしおとの世界戦前夜、まさみについての衝撃の事実を知ってしまう。たかこを忘れきれずふるわなかった僕のためにまさおが世界中から似ている人物を探し、大金を積んで用意した偽りの恋人だったのである。拳を握りまさみの前に立つ僕だったが、その拳が振るわれることはなく、また僕は闇へと消えて行った。
しかし、試合当日、リングの上にはバンテージを巻く僕の姿があった。
必殺のパンチは残り1発あったが、このパンチの致命的な欠陥をよしおは知っており、通用するように思われなかった。
よしおの素早いステップワークから生み出される遠心力の乗ったフックは脅威だが、かつて天才と呼ばれた僕の動体視力の前では止まっているも同然だった。
共に今は亡き、たかこからボクシングを学んだ2人はお互いの戦い方をよく知っていた。
勝っても負けてもおそらく僕にとっては最後の戦いだろう。
レフリーが誘導し、僕ら2人はリングの中央で軽く拳を合わせた。
世界中の100万人の観客はそこに何もいないかのように静かだった。
「終わったら一緒に飲みに行こう。モロッコにまずい安酒を飲ませる店がある」
僕がそういうとよしおがニヤリと笑った。
今、試合のゴングが鳴る。
~~~~~~~~~~~~~~~(イメージ終わり)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
先ほど聞こえたゴングはまさにその音だったのだろう。
どの世界でも速度は価値であり、最も単純に勝ちに近づく手段である。
高まった僕は開始早々、最後の一発である必殺パンチを撃つような心持ちで華麗にステップインした。
「いやね、僕もチェーンソウってどうなの?って常々思ってる訳よ」
「は?何言ってるんすか。嘘っすよ」
おそらく多くの人が無意識下でも相手がどのように返答するか、のイメージを持っていると思うが、この時の同僚の言葉は僕の想像を遥かに超えたもので、まさに死角からの強烈な一撃だった。
僕はタバコに火をつけるのも忘れて呆気にとられてしまった。
同僚はこちらに一切の視線を向けることなく、スマホをいじっていた。
てっきりAmazonで「現段階で合法的に所持できるベスト武器」の選別をしていると思ったが何か知らないスマホゲーをしていたようだった。
一瞬のち、猛烈な恥ずかしさが僕を襲った。
いや、職場の喫煙室で、いい年した大人がゾンビについて語るなんて恥ずかしいことだと思うよ?
けどさ、そりゃ僕ゾンビ好きだしね、テンションあがっちゃう訳じゃない?
むしろさ、こっちは乗ってあげたと言っても過言じゃないのに返答に愛がないのよ。
僕は一矢報いるべく、よろけた体制からとりあえずフォームだけのアッパーをふるうような弱弱しさで言った。
「って課長が言ってたんだよね。マジウケた」
「えっ?」
ついに同僚がこちらを見た。
僕も同僚を見ていた。
怪訝な顔、というwikipediaの項目があるなら是非、参考画像に載せて欲しいと思えるほど、完璧な怪訝な顔がそこにあった。
そうだろう。僕らの所属するチームにはそもそも課長はいないし(※別のチームにはいる)、何よりマジウケたといいながら僕は真顔だった。僕はこの時ほど自分の能力の低さを恨めしく感じたことはなかった。
「何が、です?」
「えっ、え?」
イルカのように僕の目が自由に泳ぎ回っていた。
…ァーン、トゥー、スリー…
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
気づいたら僕はダウンしていた。
開幕直後の奇襲攻撃が完全に裏目に出たのだった。
スポットライトが眩しい。
僕はリングに拳をついて力を入れた。
しかし、つま先に力が入らない。どうも脳が揺れているようだ。
顔をあげると、たかこの姿が見えた。
薄暗い観客席で、たかこのまわりだけが明るく照らされているように見えた。
いや、そんなはずはない。たかこは死んだのだ。
僕はよく見ようと目を凝らした。
あれは、たかこじゃない。ああ、そうだ。まさみだ。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
僕はタバコに火をつけて充分にゆっくり、煙を吸い込んだ。
そして、フーっとそれは長く、長く煙を吐いた。
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「頑張って!立ち上がって!!」
まさみは大声で僕に言った。
この嘘つきが。どのツラ下げて――
僕は心の中でつぶやいた。
しかし、先ほどとは変わって力が漲ってくるような感覚があった。
レフリーがエイトを数える前に僕は再びファイティングポーズをとった。
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果たして、ゾンビが好きで、一人考察を深めることは恥ずかしいことだろうか?
嘘をつくことは常に誤った行いなのだろうか?
色々な面があっていい。
そのすべてを愛せるほど大きいもので包み込んでしまえれば、それでいいのだ。
「ゾンビってさ。大量にいるじゃない?いや、だからそもそもあんな大量にいたらどの武器使っても無理だと思うんだよね。だからね。今のトレンドは逃げる。これね」
僕は一気に捲し立てるように言った。
「…ああ、そうっすか」
フフっと同僚は苦笑いを浮かべると、僕と視線を合わせることなく早々にタバコを消して喫煙室を出て行こうとした。
禁じられた4発目の必殺パンチのモーションに僕はもう、突入していた。
「高校の頃、隣の席に不美人がいて、綺麗になろうとして、周りから冷ややかな目を向けられていた」
高校2年の1学期最後の席替えで、ある女の子が僕の席の隣になった。
その子はおそらく何らかの障害で頭頂部の毛髪が少し薄かった。
そして、そのことを差し引いても美人とは言いがたく、彼女の話声をイメージできない程、無口で目立たない子だった。
彼女にはかなり仲のいい友人が一人がいた。イボガエルを上から思いっきり潰したような顔の、色の白い女の子だった。
この子はかなりおしゃべりで、休み時間ごとに遊びに来ては、昨日見たテレビの話や、なんだかよくわからない事をまくし立てるように話していた。
僕の隣の子は彼女の話を、蚊のなくようなか細い声で「うん、うん」と聞いているだけだった。
はじめのうちは声の様子から嫌々ながら彼女の話を聞いているのだと僕は思っていたのだけど、隣の子を見るとニコニコと、本当に楽しそうな笑顔で頷いて聞いていた。僕にはイボガエルの話をそんな風に聞くことが楽しいようには思えなかったのだけれど、きっとそういうのが好きな子なのだろう、となんとなく理解した。
高校2年の夏はあっという間にやってきて、気づいたら終わってしまっていた。
なんとなく慌しいような生活の中で夏休み明けの席替えが終わり、元々影の薄かった彼女の存在は教室という狭いけれど深い社会の中に同化して、そのうち見えなくなった。
僕の中で彼女の存在が再浮上したのは、年を越した1月のことだった。
おろした前髪で多少隠れてはいたが、眉毛が全て無くなっていた。
僕は、なんらかの病気の治療の影響なのかと思った。おそらく他のみんなもそう思っていたと思う。その件について話すことがなんとなく憚られて、最初、誰もそのことを口にしなかった。
だが、その推測は間違いだったのだと思う。
これまで、自分の意見を言うことなく、小さな声で「うん、うん」と頷いていた彼女が、イボガエルと廊下で楽しそうにおしゃべりをしたり、学校指定外のかばんを持ってきたりするようになった。スカートも少しずつ短くなっていった。
おそらく彼女は変わろうとしていたのだ。
徐々に彼女は陰で「般若」と呼ばれるようになった。「キモチワルイ」と嫌悪する人も少なからず、いた。ただ、人畜無害な彼女らを表立って迫害するような人は誰も居なかった。冷たい視線の中心で、彼女らは相変わらず平穏な日々を過ごしているようだった。
3年になって、また彼女が隣の席になった。
髪の毛をわからない程度に染めたようだ。頭頂部は薄いままだった。
ある授業中、隣でひょこひょこ動くものに気づいた。何かと思って見てみると彼女が椅子に座りながら膝曲げたり、伸ばしたりしていた。
おそらく足を細くするための体操なのだと思う。
僕はあの冬、彼女に何があったのか想像した。
彼氏ができた、のかもしれない。恋をした、のかもしれない。だが、なんとなく僕は、彼女が恋をするための努力を始めたのではないかと思っていた。理由は特にない。本当にただの推測だった。
彼女はきっと、これまでの人生の中で目立たない事が至極当たり前すぎて、今回の自分の変化が周囲から注目されていることに多分、まだ気づいてさえいないのではないか、と僕は思っていた。
僕が彼女の変化に気づいていることを、彼女が気づいてしまえば、それを恥ずかしく感じるかもしれない。そうして今度は目立たないための努力を始めるかもしれない。
僕は結局、高校の3年間で彼女と一度も話をしなかった。
それから8年程たった頃、僕は仕事で東京にいた。
職場の後輩がどうしてもというので呑みに連れて行った。
この後輩は大の女好きだったが、残念な事にまったくモテなかった。
2件目は彼の同級生が働いているといるというキャバクラへ遊びに行くことになった。
彼は中々の顔らしく、中へ入るとすぐにVIPルームのような部屋に通された。
後輩は、女の子が席につくのを見計らって「俺のおごりなんでじゃんじゃん呑んでな」と鼻の穴を膨らませながら言った。
先輩と紹介された僕の立場が少し悪くなった気がしたが、ここは華を持たせてあげようと思った。
「あれ、○○くん?」
隣に座った女の子が僕の名前を呼んだ。目鼻立ちの整った綺麗な女の子だった。
見覚えはなかった。
「わたし、ほら、高校の時一緒のクラスだった!」
胸元が大きく開いた赤いロングドレスは、色の白い彼女によく似合っていた。
ただ、少し窮屈そうに見えるほど、大きく膨らんだ胸がぎゅうぎゅうと詰まっていて、彼女のあざとさを感じた。
「わからないかなー」
と、彼女が少し不機嫌そうな声を出した。
ただすぐにニコッと笑いながら彼女は左手を口元に縦に置いて、僕の側に寄った。
耳打ちをするようだ。
彼女は、あの子と仲の良かったイボガエルの名前を言った。
僕は驚いて、少し無遠慮に足先から髪の毛に至るまで彼女の全身をもう一度見直した。
イボガエルに胸があったかどうかは覚えていないけど、顔は確実に別人だった。
「セイケイしたの」
彼女はもう一度、そう僕に耳打ちをした。
整形か。僕は納得して、またすぐに驚いた。ここまで変われるものなのかと。
彼女は屈託なくニコニコしていたので、もしかしたら整形は公然の秘密なのかも知れない。だが、もしものことを考えてその件についてはその後、努めて話さないようにした。
彼女は懐かしむように柔和な態度で僕に接した。でもそれがなんとなく居心地悪かった。
それからしばらくして高校の頃の別の女の友人と会う機会があった。
僕らは渋谷のオープンカフェで待ち合わせた。しばらくは近況を報告し合っていたのだけれど、何かのタイミングで僕がイボガエルに会った話をした。
目の前の彼女は、ふん、と小馬鹿にしたように笑った。
「なんかめちゃくちゃ整形しまくってるらしいね」
彼女とイボガエルは小中高と同じ学校だったらしく、卒業した後もSNS上でしばらくは交流があったとの事だった。
全く知らなかったがイボガエルはある男性アイドルの大ファンで、彼のおっかけをしていたらしい。
「それがもう大変でさ。そのアイドルと付き合ってるって思い込んじゃったみたいなのよね。テレビで女のタレントと話しただけで、SNSにリストカットした手首の写真とか載せたりして」
知識としてしか知らないがそういう子達は世の中に間々いるらしい。
「ほら、同じクラスに仲いい子がいたじゃない。般若とか言われてた。あの子が亡くなってからそういうのがエスカレートしたみたいで」
般若。高校2年生の時、隣の席に座っていたあの子の事だ。顔はすぐに思い浮かんだが、名前が思い出せない。
「それからはすぐに上京したみたい。水商売始めて整形しまくって。アイドル関係で結
構大きな事件もおこしたみたいで、ネットでも有名らしいよ。あの子」
「いつ?」
「え?多分二十歳くらいだったかな。ホントに有名になっちゃったから成人式でも話題だったもん」
「いや、あの…般若って呼ばれてた子が亡くなったの」
「え、んー。1年くらいかな。高校卒業して」
帰りの電車は遅い時間だったせいか、ポツリ、ポツリと人が乗っているばかりで、ガランとしていた。友人とはその後、共通の知り合いがやっている居酒屋に呑みに行った。東京での生活に大分疲れているようでしきりに地元に帰りたいと言っていた。
僕らは今度、イボガエルの店に遊びに行く約束をした。彼女は「ビックリするかな」と言って、ニシシと意地悪そうな顔で笑った。僕は、「多分君の方が驚くんじゃないかと思うよ」と言って別れた。
僕は誰もいない電車のシートの端に座って、ふぅと息を吐いた。
あの子が亡くなったと聞いてから何度も名前を思い出そうとしたけど結局できなかった。
僕はあの子のことを何も知らない。好きな食べ物の事も、あの時何故あんな突飛な事をし始めたのかも。
高校卒業を控えた3学期、僕は殆ど学校に行っていなかった。
秋ごろには早々に進路が決まっていた僕は、卒業するのに充分な出席日数を既に取得していたため学校へ行く理由が特になかったのだ。
ある時、友人と遊ぶ約束があったため図書室で借りていた本の返却がてらに登校した。
私立受験組のために授業の殆どが試験対策か、自習だったので、結局僕は授業を受けずに図書室で本を読んでいた。その時、しん、とした図書室にあの子がやってきた。
あの子は僕が座っていた大机のはす向かいに座った。
僕らは話もせず、視線も合わせず、黙々とそれぞれの本を読んだ。
そしてそれが僕の記憶の中での最後のあの子の姿だった。
彼女はその人生でどんな恋をしたのだろうか。なりたい自分になれたのだろうか。
例えばもし、彼女が生きていて今この瞬間に目の前の電車のシートに座っていたとしても、きっと僕は話かけたりしないのだろうと思う。そしてきっと彼女もそうだ。僕らは確かにそういう関係だった。
けれど、僕は高校卒業後もあの物静かな女の子のことを時々思い出した。
何かのタイミングで彼女の話を誰かにしようとしたこともあった。
だが、結局誰にも話さなかった。
「高校の頃、隣の席に不美人がいて、綺麗になろうとして、周りから冷ややかな目を向けられていた」
話にすれば、それだけのことだ。
ただ、今思い返してみても僕は確かにあの時、彼女の変わろうとする意思を、とても美しいと感じていた。
僕が名探偵になった話
僕が5年程前に住んでいたアパートはボロい上に駅まで徒歩15分以上もかかる、カスのような住処だった。
それでいて家賃が安い訳でもなく、2階建ての1階は何かの工場で、早い時は平日の朝5時くらいから電動のこぎりで金属のようなものを切っている音がしていた。
思い返してみればメリットなんてものは1つもなかったけれど、まあまあそれなりに楽しくそこで暮らしていた。
そばはのどごしという人もいるが、僕はあくまでよく噛みたい派
世界最強レベルの妻を持つということについて
僕の妻はかなり気が強い。